篠田節子の感染症パニック小説、「夏の災厄」を読みました。
文庫本で590ページの長編ですが、一気に読ませる力はたいしたものです。
![]() | 夏の災厄 (角川文庫) |
篠田 節子 | |
KADOKAWA/角川書店 |
撲滅したかに見えた日本脳炎が、埼玉のベッドタウンで流行。
やがてそれは、従来型の日本脳炎よりもはるかに致死率の高い、新型日本脳炎とでも呼ぶべきものであることが判明します。
この小説には、天才的な科学者や医者は登場しません。
診療所の医師やその診療所に勤める地方公務員、看護師らが中心となって、この病気の真相に迫るのです。
大学病院が恐るべき実験を行っていたり、聞いたこともない貝が媒介していたり、霞ヶ関の役人が悠長なことを言ったり、あり得そうな話で展開して、読ませます。
そしてラスト、この病気を克服したかに見えますが、来年の夏、首都での流行を予感させて終わります。
難を言えば、あらすじを追うような大雑把な文章が続くことでしょうか。
人間を描く小説ではないように思います。
それはこの手の物語につきものの宿命なのかもしれません。