海が引く

文学

 秋も深まってまいりました。
 今日は朝から冷たい雨。

 冬が死の季節だとするなら、秋は死を予感させる頃。
 移ろいゆく四季に、人生をなぞらえるのは、季節が豊かなわが国民であってみれば、自然なことでしょう。

 秋の暮 大魚の骨を 海が引く

 
西東三鬼の句です。


西東三鬼全句集
三橋 敏雄
沖積舎

 大魚の骨とは、すでに亡くなった魚の骨。
 それが海に洗われているというのです。

 老境に達した俳人は、その姿に自身の死と、死がもたらすであろう再生を夢見ていたのでしょうか。

 壮大な感じがする句ですね。

 今年は一つ下の後輩が心不全で突然死し、私もまた、おのれの死を想わずにはいられませんでした。

 輪廻転生が、また、成仏が事実なら、死は新たな生への始まりとも言えるでしょう。
 後輩は中有の闇を越えて、新たに輪廻の輪に入ったのでしょうか。
 あるいは見事涅槃に至り、輪廻の輪から抜け出したのでしょうか。

 誰にも分からないことです。

 上の句は、誰にもわからない生死の問題を、壮大な景色のなかに切り取ってみせたような感じがします。
 黙示的とでも言いましょうか。

 私も独り、秋の海で壮大な夢想に浸りたくなりました。


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