セーラー服歌人

文学

 最近、セーラー服歌人として話題の鳥居の歌集「キリンの子」を読みました。

 鳥居と言う人、2歳のときに両親が離婚。
 小学5年生の時には目の前で母親が自殺。
 養護施設での虐待、ホームレス生活などを経験したという凄絶な過去をお持ちです。
 中学生の頃には友人が電車にはねられて自殺する現場にも居合わせたそうです。
 自身、自殺未遂やリストカットを繰り返したとか。

 義務教育をまともに受けられなかったことを表現するためにセーラー服を着ているそうです。
 年齢は不詳。

 あおぞらが、妙に、乾いて、紫陽花が、路に、あざやか なんで死んだの

 いかにも稚拙な歌ですが、不思議と胸に迫ってきます。

 冷房を いちばん強くかけ 母の体はすでに 死体へ移る

 これもうまいとは言えませんが、その情景を思い浮かべると、迫力があります。
 それを、冷静に詠ってみせるところに、歌人の真骨頂があるのでしょう。

 自身の自殺未遂を詠んだ歌では、

 靴底に 砂や海藻沈めたまま 入水後の冬 迎えたブーツ

 というのが印象的です。

 虐待を詠んだ歌として、

 理由なく 殴られている 理由なく トイレの床は 硬く冷たい

 などがあり、慄然とさせられます。

 しゃがみこみ 耳を塞いだ友だった あんなに大きな 電車の前で

 これは友人の自殺を詠んだ歌でしょう。

 暗澹たる気持ちにさせられる短歌群ですが、不思議な静けさというか、諦念みたいなものが感じられて、それが救いになっているのかもしれません。

 そうはいっても幸せだった頃を回想したと思われるノスタルジックな短歌もあります。

 目を伏せて 空へのびゆく キリンの子 月の光は かあさんのいろ

 まだみんな 家族のままで砂浜に 座って見つめる 花火大会

 など。

 これらは、まるで時を遡ったような味わいに溢れています。

 「キリンの子」は歌人の処女歌集。
 この人がどんな成長を見せるのか、楽しみです。

キリンの子 鳥居歌集
鳥居
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス


 

セーラー服の歌人 鳥居 拾った新聞で字を覚えたホームレス少女の物語
岩岡千景
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス

 
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