春の瘴気濃い年度末の日曜日。
この時季はいつもそうですが、狂おしいまでの焦燥感と不安感に駆られます。
わが国の学年暦は4月を初月とします。
そのため多くの新入社員は4月入社。
国の会計年度も3月まで。
私の職場も当然3月で年度末ということになります。
このブログで何度も報告したとおり、6月以来私は2つの部署を一人でみる羽目になり、それがゆえ精神の落ち込み激しく、ついには上司に人を付けるか私を異動させるかどちらかにしてくれと訴え出ました。
とにかく4月の年度替わりまでは待ってくれという返事だったので、今は内示が楽しみなような怖ろしいような、複雑な心境です。
来年度もこの体制だったなら、長期の病気休暇に突入してしまうでしょう。
鬱々とした気持ちながら、じつに久しぶりに小説を読みました。
小さな現実逃避でしょうか。
読んだのは桜木紫乃の直木賞受賞作「ホテルローヤル」です。
北海道の湿原を背に建つ小さなラブホテル、ローヤルでの人間模様を7編の短編小説で紡いだ作品です。
面白いのは、すでに廃業して廃墟となったホテルを舞台にした作品から始まり、現在から過去へと現実とは逆の時系列で物語が語られることです。
ホテルは一般庶民の悲哀を負う象徴として厳然と存在し、庶民の夢や苛烈な現実が描かれ、人生のほんの一瞬間が語られます。
ラブホテルというのは世界でも稀有な存在であるらしいことを知ったのは、高校生の頃、知り合いがオーストラリアからの留学生をホストファミリーとして受け入れ、オーストラリアの少女から聞かされたのがきっかけでした。
古くは連れ込み旅館とか言ったそうです。
要するに性交するための空間としての役割を専らとする休憩所のことで、我が国の住宅事情が関係しているものと思われます。
自室も無いような狭い家に大家族で暮らしていたら、性交は難しいでしょう。
オーストラリアの少女は堂々とそういう物が巨大な看板をぶら下げて多数存在していることに衝撃をうけたようです。
風俗なんかもそうかもしれませんが、性欲を満たすだけのみならず、わずかな時間、異空間へと人を誘うような場所で、そこでは正常な時間は歪みます。
そんなラブホテルを舞台にして、廃墟となったホテルでヌード写真を撮る恋人同士や、ホテルで働く人々、経営者、ホテルで性交を楽しむ人々など、ホテルを囲む登場人物が次々と描かれ、秀逸です。
この小説に登場する人物みなと同様、私は名も無く、くだらぬ人生を生きる庶民です。
だからこそ登場人物たちのほんの小さな、しかしかけがえの無いピースを拾い集めて見せたこの物語に、ひと時、心を揺さぶられることになりました。
これは物語作者を夢見て叶わなかった私の大きな喜びとするところです。