本屋大賞受賞作「イン・ザ・メガチャーチ」を読み終わりました。
本屋大賞とは、書店員が読んでもらいたいと思う小説に投票し、最も得票が多かった作品が受賞するというものです。
偉い先生が選ぶ直木賞よりも本屋大賞を受賞するほうが嬉しいという作家もいるほどです。
それはそうでしょう。
現場の人が面白いと思ってくれているわけですから。

この小説はファンダム経済を扱っています。
いわゆるオタクが推しのために多額の金を遣って同じCDを何十枚も買ったり、オタク仲間と金を出し合って渋谷に巨大な広告を出したり、それで経済が潤うというカラクリ。
当然、アイドルや俳優を操っているのはバックにいるおじさん達ですが、オタクはそんなことは百も承知で推し活を嬉々として進めます。
この作品では、若手俳優が突然自殺し、そのファンたちが自殺を認めず、霊媒師に多額の金を払って若手俳優と対話し、自殺ではなく、日本崩壊を企む黒幕に依って殺されたのだと確信するに至ります。
若手俳優が黒幕の存在に気付いてしまったから殺されたというのです。
そしてまるで新興宗教のように黒幕の存在を暴くための運動に血道を上げることになります。
そのストーリーと同時並行で、内向的で友達がいない女子大生がデビュー前のアイドルグループの押し活に励む姿が描かれます。
女子大生はグループの中で、ただ一人内向的な少年に強いシンパシーを感じ、狂気じみた運動を始めます。
同じグループを押す界隈の人々と交流し、生まれて初めて心から落ち着ける居場所を得るのです。
そして女子大生の父親で、アイドルグループをプロデユースする男の姿も描かれます。
彼はグループの熱狂的なファンを増やすべく、仲間とともに業界で暗闘を繰り広げます。
娘がその一人だとは知らずに。
ラストにいたって、渋谷で黒幕を暴く演説会をする少女達と、デビューするグループを観るために渋谷に集ったファン達、そして父親が同じ場所で出会うのです。
抜群に面白い小説ですが、おじさんには若者言葉というか、オタク用語というかがよく分からず、スマホで意味を調べながら読み進めました。
これがちょっと面倒くさい。
しかし印象的な文章が随所に散りばめられています。
強く狭く思い込む。
幸せの形は人それぞれという例の呪文が鳴り響く
これからの人生に還ってくるのは、これまでやってきたことよりもやってこなかったこと
これまでは、間違いさえしなければ、なんとなく正解の部屋に入れました。でも今は正解の部屋自体が無いから、例え一つも間違わないでいたとしても、ただ「間違わなかった人」になるだけなんですよね。(中略)だからもう何をするにも、こうやって間違うって腹決めて脳みそ溶かして動くしかないんですよね
などなど。
心に刺さります。
私自身がいつもテーマにしてきた、くだらないことに熱中して自滅する人々を描くということに近く、作者に非常なシンパシーを感じます。
ちなみに、メガチャーチとは、米国などに見られる巨大な教会のこと。
巨大な教会は熱狂的な信者から多額の寄付を受け、肥え太っていきます。
いわば黒幕。
熱狂的な信者になぞらえた作品です。
ご一読をお勧めします。