文学

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路(ルウ)

今日は午後から目白で競争的資金獲得のための勉強会。 直行直帰を許されているので、朝はのんびりです。 昨夜、吉田修一の「路(ルウ)」という小説を読了しました。路 (文春文庫)吉田 修一文藝春秋 吉田修一といえば、芥川賞受賞作の「パーク・ライフ」など、巧みな心理描写で人生を描き出す作家というイメージを持っていました。パーク・ライフ (文春文庫)吉田 修一文藝春秋 「路(ルウ)」は台湾新幹線の受注から完成までの10年近い日々を描いた長編で、読み始めた当初、奮闘するサラリーマンの物語なのかなと思い、やや退屈な感を覚えました。 しかし読み進むうち、そこはさすがに吉田修一と思い知らされました。 新幹線を売り込む商社に勤める若い女性と、台湾人で日本の建築会社に勤める男との淡い恋、女性の日本人の恋人の鬱病発症、台湾で生まれ育ち、戦後日本に引き上げた老人の鬱屈、台湾人同士の恋物語などが重層的に綴られ、大団円に向かってそれぞれの人生が交差していく、感動的で切ない叙事詩に仕上がっており、非常な感銘を受けました。 変形的なメリー・ゴーラウンド方式の手法を採った作品で、私は圧倒されました。 私は優れた小説を読む...
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ひろくさびしき

業務多忙だと憂鬱になるのは、何も私が精神障害を患っているからだけではありますまい。 誰だって忙しいのは嫌でしょう。 多忙のなかにこそやり甲斐があると言っても、それは限度があります。 暇なのも時間が経たなくて苦痛です。 真、人というものはわがままに出来ているようです。  命一つ 身にとどまりて天地(あめつち)のひろくさびしき 中にし息(いき)す 窪田空穂の和歌です。窪田空穂歌集 (岩波文庫)大岡 信岩波書店 命の器でしかない肉体を詠って壮大です。 その壮大さを思う時、私はおのれの小さな感情に恥じ入るばかりです。  小さな肉体に閉じ込められて世の片隅で生きるしかない私たち。 私たちはその宿命を呪いながらも、呪うばかりではなく、幸福を求めずにはいられません。 そのような人類全体、いや生命全体を貫くどうしようもない運命を嘆かずにいられない精神とは、如何なる構造になっているのでしょうね。にほんブログ村 人気ブログランキングへ
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茶器

職場の警備員から、妙なことを頼まれました。 焼き物が趣味だとかで、満足いく出来の茶碗が3つほどあるので、お茶の師匠をやっている私の母に見てもらいたいというのです。 私は母が茶道の先生をやっているなんて、職場で話した覚えが無いのですが、飲み会の席か何かでぽろっと言っちゃったんでしょうね。 それを伝え聞いた警備員から茶碗を預かったというわけです。  こんな感じです。 私は茶道具に関しては全くの素人ですが、素人目ではなかなか良く出来ているように感じます。 果たして母が何と言うか。   で、今日これから実家に行かなければならなくなりました。 8月13日に墓参りに行ったばかりなのですが、自分を頼ってこられると断れないという厄介な性格が災いして、素人の茶碗を母に見せるという面倒ごとを引き受けてしまいました。 まぁ、そんなにけなされることは無いとは思いますが。
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ウランバーナの森

昨日は奥田英朗のデビュー作「ウランバーナの森」を読みました。ウランバーナの森 (講談社文庫)奥田 英朗講談社 ウランバーナとは、サンスクリット語で盂蘭盆会の意味。 明らかにジョン・レノンをモデルにしたと思われる主人公、ジョンとその妻ケイコ、幼い息子ジュニアが、軽井沢の別荘地でひと夏を過ごす幻想的な物語です。 奥田英朗といえば、ユーモア小説からミステリーまで、幅広くエンターテイメントを描く作家のイメージがありましたが、今作は純文学の香り漂う上品なものでした。 ジョンはひどい便秘に悩まされ、医者に通います。 ストレス性だろうということで、途中から精神科に移ります。 軽井沢の森では、靄が立ち込めると、不思議な現象が発現します。 ジョンと関係の深かった死者が、靄の中から現れ、つかの間の逢瀬を楽しむのです。 ジョンは困惑しながらも、関係が良かったとは言えない母親や、ひどい言葉をなげつけて傷つけてしまったマネージャーらに会い、謝罪したりして、癒されていきます。 お盆には死者がこの世に帰ってくるという故事を念頭に置いた物語なのでしょうね。 それは現実に出来したことなのか、精神科医の催眠療法によるもの...
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崩れる

いつもどおり朝は6時半に床から出ました。 私は生活のリズムが崩れることを怖れ、休みの日でもいつもどおりに起きるようにしています。 水のシャワーを浴びて頭をすっきりさせ、納豆と明太子とソーセージをおかずに朝飯を食いました。 その後珈琲を飲みながら新聞を丹念に読みました。 8月15日という日ではありますが、安倍談話以外はそれほど戦争ネタはなく、少しほっとしましたね。 続いて読書。 貫井徳郎にしては珍しい短編集を読みました。  「崩れる」です。 崩れる・怯える・憑かれる・追われる・壊れる・誘われる・腐れる・見られる、という8つの短編が収録されていました。 タイトルをすべて動詞にしていますが、物語に共通性はありません。 じつにバラエティに富んだ作品群で、いずれも日常のちょっとした恐怖や奇妙さを描いています。 それでも、いわゆる奇妙な味というわけではなく、この作者らしい、短いながら本格的なミステリーの香りを醸し出しています。 作者は長編をよくしますが、まるで短編の名手のような印象を受けました。 器用な人ですね。崩れる 結婚にまつわる八つの風景 (角川文庫)貫井 徳郎角川書店(角川グループパブリッ...
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神鳴の

朝から大気の状態が不安定なようで、雨が降ったりやんだり。 さっきからは雷が鳴っています。 夏らしいといえば夏らしい天気です。 神鳴の わづかに鳴れば 唐茄子の 臍とられじ と葉隠れて居り 正岡子規の和歌です。 雷を神鳴と表現しています。 唐茄子とは、かぼちゃのこと。 雷がわずかに鳴っただけで、庭のかぼちゃがへそをとられまいと葉に隠れた、というユーモラスな和歌です。 「竹乃里歌」という歌集に見られますが、上の歌の後に、 神鳴の 鳴らす八鼓(やつづみ)ことごとく 敲き(たたき)やぶりて 雨晴れにけり という和歌が見られます。  こちらは解釈の必要はありますまい。 字義どおり、力強くて神話的な趣を感じさせます。子規歌集 (岩波文庫)土屋 文明岩波書店竹乃里歌―正岡子規全歌集土屋 文明,五味 保義岩波書店 病床にあっても、正岡子規は季節の移ろいを感じつつ、時にユーモラスに、時に力強く季節を切り取ってみせました。 その執念はどこから来たのでしょうね。 季節感を何より大切にするわが国の詩歌の世界は、地球温暖化や異常気象、また冷暖房の普及によって、もはやこの世のものでは無いような感すら覚えます。 こ...
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トンデモドクター、第3弾

デブで子供のように無邪気な精神科医、伊良部先生が活躍する連作の第3弾を読みました。 「イン・ザ・プール」、「空中ブランコ」に次いで、「町長選挙」を読みました。イン・ザ・プール (文春文庫)奥田 英朗文藝春秋空中ブランコ (文春文庫)奥田 英朗文藝春秋 明らかにナベツネをモデルにしたと思われる短編やホリエモンを擬したと思われる作品に続いて、離島の診療所に2か月限定で赴任した伊良部医師と島の町長選挙の珍騒動を描いた表題作など、ますますパワーアップしてくれちゃってます。 また、胸の開いたミニのナース服に身を包んだクールなナース、じつはパンクロックのバンドをやっていて、何かと金がかかることが初めて明かされます。 今回もまた、大いに笑わせてもらいました。 いやぁ、愉快。町長選挙 (文春文庫)奥田 英朗文藝春秋
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せみ啼くや

久しぶりに涼しい朝を迎え、午前中は窓を開けるだけで、冷房を使わずに済みました。 このくらいなら楽ですねぇ。 しかしお昼をいただく頃には太陽が顔をだし、私はそれを恨めしく眺めました。 せみ啼くや 行者の過る 午の刻 わが敬愛する与謝蕪村の句です。 セミがうるさく啼き騒ぐ真昼時、仏教だか修験道だか知りませんが、行者のいでたちの者が通り過ぎていくさまを詠んでいます。 カンカン照りの太陽、それをさえぎる物とて無い往来のイメージと、行者という言葉が醸し出す神秘的な要素、それに、いっそ不気味でさえあるセミの大音声が、逆に静けさを感じさせ、夏の陽射しにぼうっとなった頭が見せる幻のような、絵画的印象を感じさせる句です。 与謝蕪村は絵描きでもあり、句の多くが絵画的であることを思えば、当然なのかもしれません。蕪村句集 現代語訳付き     (角川ソフィア文庫)玉城 司角川学芸出版 近年の流行歌では、夏の恋を扱ったりして、夏休みとあいまって夏は楽しい季節であるかのように歌いますが、本来日本人にとって夏は過酷な季節であり、おそらくは疾病に罹る者や亡くなる者が多かった、死の季節であったろうと推測します。 そのよ...
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ヨルの綱渡り

昨夜は「告白」で大ベストセラーをとばした湊かなえのミステリーを読みました。 じつは「告白」は読んでいないのですが、映画で観て、非常な感銘を受けました。告白 【DVD特別価格版】 松たか子,岡田将生,木村佳乃東宝 昨夜読んだのは二人の仲の良い女子高生の夏休みを描いたものです。 タイトルは、ずばり、「少女」。 ブログのタイトルは、作中小説の題名です。 この二人の他に、ほとんど登場しませんが、ミステリアスな転校生がからみ、物語は重層的でいくつもの仕掛けを隠し、あっと驚く内容になっています。 転校生は、前の学校で、親友の自殺に出くわします。 遺体の第一発見者になってしまったことにより、人の死ということに関し、愁いを帯びた口調で語ります。 それを聞いた二人は、猛烈に人の死に、それも死ぬ瞬間に立ち会いたいと願います。 夏休み中、一人は老人ホームでボランティア活動をし、一人が読み聞かせのボランティアで訪れた病院で難病の少年と知り合い、交流を深めます。 その中に恋愛めいたスパイスを効かせつつ、誰もが一癖も二癖もある人物であるということが分かり、終盤、予想もしなかった展開を見せます。 もちろん、中心とな...
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トンデモドクター、大活躍

昨夜は冷酒をちびちびやりながら、デブで幼児のように天真爛漫な精神科医、ドクター伊良部が活躍する、「空中ブランコ」を楽しみました。空中ブランコ (文春文庫)奥田 英朗文藝春秋 以前読んだ「イン・ザ・プール」の続編です。イン・ザ・プール (文春文庫)奥田 英朗文藝春秋 伊良部総合病院の跡取り息子、伊良部先生は一風変わった精神科医。 総合病院の暗い地下の診察室で、患者を待ち構えています。 患者が来ると、まずはビタミン注射。 打つのはミニスカートに胸の開いた白衣を着たクールなナース。 伊良部医師、注射を打つのを観るのが大好きな注射フェチなのです。  某サーカスで空中ブランコのエースを張っていた男が、失敗を積み重ねるのを苦に来診したり、ゴールデングラブ賞の常連の名野手が暴投ばかりするのに苦しんだり、恋愛小説のカリスマが創作に悩んだり、それぞれに深刻な悩みを抱えて伊良部先生の元を訪れますが、伊良部先生は能天気。 しかし逆説的な方法で結局は解決してしまうところをみると、伊良部先生は名医なのかもしれません。 ユーモア小説とはかくあるべし、というような、愉快な短編集です。 自分の悩みは深刻でも、他人の苦...
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嗤う

最近お気に入りの奥田英朗の小説を読みました。 「最悪」です。最悪 (講談社文庫)奥田 英朗講談社 町工場の社長、20歳のチンピラ、銀行に勤めるOLの3人の物語が交互に綴られ、大団円に向かって一つの事件に繋がっていくというミステリーです。 この作者、ユーモア小説からミステリーまで、幅広い守備範囲をお持ちで、しかも読みやすい文体で豊かなストーリーを紡ぎだせる稀有な才能をお持ちのようです。 誠に羨ましいかぎりです。 かつて小説家を目指していた私は、長いこと古典以外の小説を読むことが出来ませんでした。 嫉妬してしまうからです。 しかし長い精神障害のトンネルを抜けて、やっと素直に現代の優れた小説を楽しむ心の余裕ができました。 それは多分、諦めなんていう生易しいものではなく、私の人生が精神的に大きな転換を迎えたためだろうと思っています。 精神障害に対する差別はなお根強く、この先職場で出世する見込みはなく、小説家目指して大博打を仕掛けるタイミングはとうに失いました。 客観的には、堅い仕事に就いて、結婚もし、マンションも買いと、望む物は全て手に入れたように見えるかもしれません。 しかし主観的には、私は...
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ララピポ

昨夜は水割りをちびちびやりながら、小説を楽しみました。 奥田英朗の「ララピポ」です。 対人恐怖症のフリーライター、NOと言えないカラオケボックス店員、AV・風俗専門のスカウトマン、デブ専裏DVD女優のテープリライターなど、社会からはみ出した人々の日常を同時並行的に描き、最終章に至って全員の人生が交差する群像劇です。 このようなスタイルの物語はわりあいたくさん見られます。  職場で学校で、あるいは趣味で、多くの人々と出会い、人生が一瞬といえども交差するわけですが、その瞬間に至るまで、私たちは同時代を並行して、互いを知らぬまま生きてきたわけです。 袖触れ合うも他生の縁、と申します。 たとえ電車で隣り合っただけでも、何らかの縁があるということですから、友人になったり同僚になったり、さらには恋人になったり結婚したりするというのは、よほどの縁なのだろうと思います。 「ララピポ」は、軽く読める楽しい作品でありながら、そういった人の縁について考えさせられる力を持った小説でした。 ララピポって何のことかと思っていたら、作中、外国人が東京の印象を、a lot of peopleと述べ、ネイティブが発音す...
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バルタザールの遍歴

佐藤亜紀衝撃のデビュー作「バルタザールの遍歴」を読み終わりました。バルタザールの遍歴 (文春文庫)佐藤 亜紀文藝春秋 公爵家に生まれた体が一つで人格が二人の双子、クレヒオールとバルタザール。 普通は二重人格と呼ぶのかもしれませんが、二人は常に対話をし、互いに得意分野をゆずり、すくすくと成長していきます。 さらには、二人は幽体離脱というか、体を抜け出して生活する能力を持っていることが分かります。 ただし、抜け出したほうはパッと見には肉体的実体をもっているように感じられます。 影が無いことと鏡に写らないことを除いては。 ナチが台頭するウィーンを舞台に彼らの少年時代が描かれ、父の死後、パリに長期滞在し、大酒を喰らい、女と遊び、博打を打つ、放蕩三昧の生活を送ります。 金が無くなってくるとアフリカに渡り、安宿に泊まっては放蕩を繰り返す不良貴族です。 ここまで、ナチに付け狙われたり、ならず者に身ぐるみ剥がされたり、散々な目にあいます。 諧謔に満ちた格調高い文章で、SFっぽい驚くべき世界が描かれます。 そして物語は、「バルタザールの遍歴」と言うよりは、「クレヒオールとバルタザールの没落」とでも言うべ...
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ゆるめば死ぬる

今日は二十四節季で言う大暑。 「暦便覧」には「暑気いたりつまりたるゆえんなればなり」とあります。 一年中で最も暑い時季。 この前後、ウナギを食す習慣があり、今日のお昼はうな重を頂きました。  念力の ゆるめば死ぬる 大暑かな 村上鬼城の句です。 村上鬼城の世界松本 旭角川書店 いかにも不気味な句ですねぇ。 ひどい今年の暑さ、常人といえども、もし肝心の念力のゆるむ者がいたら、その者は直ちに病んで死んでしまうに違いない、と言ったほどの意かと思われます。 念力がゆるむとは、びっくりするくらいの暑さに気力が萎えて、ということでしょう。 エアコンが普及した現代では、ここまでの過酷な暑さは想像できません。  しかし、熱中症で命を落とす人が、わずかですが毎年出ます。 してみると、上の句、あながち昔の話とばかりも言えないのかもしれません。 にほんブログ村 人気ブログランキングへ
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夏籠や

いよいよ猛暑がやってきました。 職場も自宅もエアコンが効いているうえ、通勤も車なので、正直、ほとんど暑さを感じない夏が、20年ばかり続いています。 そういう意味では、現代の内勤者には、夏らしい夏は無いのかもしれませんね。 そういえば、夏の光に照らされて、毎日弁当を入れているバッグ、大分汚れていることに気づきました。 なんだか侘しい安サラリーマンを地で行っているようで、侘しくなりました。 夏籠や 月ひそやかに 山の上 村上鬼城の句です。 夏籠とは、夏のバッグ。 今風に言うならトートバッグということになりましょうか。 涼しげな夏籠と、妖しい光を放つ月の光との対比が面白いですねぇ。 でもあんまり強烈な暑さは感じられないというか、どちらかと言えば涼しげでさえあります。 わが国は夏が過酷で、建物にしても夏を快適に過ごせるように作られていますが、一方夏は儚くもあります。 冬のようなしつこさは無く、むしろすぐに秋になってしまうイメージです。 それが夏に激しくも物悲しげな彩りを添えるのかもしれません。
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