文学

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イン・ザ・プール

名医なんだか藪なんだかよく分からない精神科医のもとを訪れる人々を描いた連作短編集「イン・ザ・プール」を読みました。イン・ザ・プール (文春文庫)奥田 英朗文藝春秋 伊良部総合病院の跡取り息子、伊良部医師は精神科医。 しかしそこを訪れる患者はほとんどいません。 伊良部医師はデブで色白で不潔感漂う中年男。 そこに、平凡な不定愁訴から、世にも珍しい起ちっぱなしに苦しむ陰茎強直症のサラリーマン、世の中の男がみなストーカーに思ってしまうモデル、携帯依存症の高校生などなどの患者が登場し、可笑しいやら切ないやら、楽しいユーモア小説集に仕上がっています。 伊良部医師の活躍を描いた続編に「空中ブランコ」という作品集があるようなので、そちらも読んでみようかと思います。空中ブランコ (文春文庫)奥田 英朗文藝春秋 いやぁ、笑いました。 喜劇は精神に良いようです。
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ザ・ベイ

昨夜はわりとよくできたパニック映画を鑑賞しました。 「ザ・ベイ」です。 米国の海辺の田舎町。 ある時、魚が湾内で大量死しているのが発見されます。 どうやら新種の寄生生物の仕業のようです。 ついに人間が感染。 一気に何百人という単位で感染が広がり、しかも体中に水ぶくれのような発疹ができて、その日のうちに亡くなってしまうという怖ろしい病気です。 寄生虫は小さな幼虫の状態で人間の体に入り、内部の肉を食いながら成長し、大きくなると7センチにもなるのです。 感染者がパッと見ゾンビに見える点や、なんとなく安っぽい感じを差し引いても、スピード感があり、ぐいぐいと引き込まれます。 何より怖ろしいのは、米国政府の対応。 田舎町につながる道路を全て封鎖し、誰も感染地帯から逃げられないようにしてしまいます。 町の医師が政府の保健機関に必死でテレビ電話を使って応援要請をしますが、保健機関の回答は、すべての患者を置き去りにして逃げろ、というもの。 しかし、医師本人が自身の体に浮かんだ発疹を示すと、保健機関は沈黙します。 そこで死ねということだと理解した医師は、体が動く限り、患者の撮影を続けます。 後世にその田舎...
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「灰色の虹」あるいは天意

昨夜、貫井徳郎のミステリーを読了しました。 「灰色の虹」です。灰色の虹 (新潮文庫)貫井 徳郎新潮社 顔に大きな痣があり、性格も内気で、彼女が出来たことがないサラリーマン。 しかし、同じ部署の、やはり内気で、お世辞にも美人とは言えない女性と職場の宴会で隣り合い、言葉を交わしたことから、二人は交際を始めます。 二人とも恋愛沙汰は初めて。 初めての喜びに、二人とも舞い上がり、至福の日々を過ごします。 しかしある時、日頃から部下に当たり散らして嫌われている上司が、彼女の悪口を言ったことからサラリーマンがブチ切れ、襟を掴んで謝罪を要求するという小さな事件が勃発。 反省して翌日どうしようかと思案していたところ、上司が何者かに殴られ、頭を地面に打って死亡するという事件が発生。 サラリーマンは無実の罪で逮捕されてしまいます。 威圧的な警察にびびりまくり、検察が無実を見抜いてくれるだろうと期待を寄せて嘘の自白をしてしまいます。 結局、検察も有罪と認定し、裁判に。 最高裁まで争いますが、有罪が確定。 男は7年の懲役に服します。 出所後、彼を待っていたのは母親だけ。 父親は出所前にうつ病を患って自殺、姉も...
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星に願いを

昨日は七夕でしたね。 織姫と彦星が年に一度逢瀬を楽しむ日。 そして私たちにとっては、星に願う日。 願い事は人それぞれでしょうが、ロマンチックな伝説に彩られた一夜、切実な願いを抱えている人もいるでしょう。 私はといえば、しがない木端役人の中年男ですから、願い事といっても宝くじが当たりますように、程度の、俗っぽい願い事しかありません。 神聖な短冊をそんな世俗の垢にまみれた願い事で汚すわけにはいかず、曇り空の向こうに輝いているであろう二つの星に、心の奥深くで欲望が叶うことを願いました。 天の川 遠き渡りに あらねども 君が舟出は 年にこそ待て 歌聖、柿本人麻呂の和歌です。 「和漢朗詠集」に見られます。 天の川はそれほど大きな川ではないけれど、一年にたった一度の渡りを待ち焦がれています、と言ったほどの、織姫の切ない恋情を表したものと思われます。和漢朗詠集 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)三木 雅博角川学芸出版 その昔は短冊ではなく、梶の葉に願い事を書いたとかで、与謝蕪村は、 梶の葉を 朗詠集の しをり哉 と詠んでいます。 七夕の夜、「和漢朗詠集」を繙いて、和漢の古人を友として一時の慰めを得た...
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噂の女

午前中、雨がぱらついていたので、読書を楽しみました。 読んだのは、奥田英朗の「噂の女」です。 糸井美幸という魔性の女をめぐる連作短編集で、重層的に物語が積み上げられ、最初のうちは大した女ではないと思わせておきながら、連作が進むにつれてとんでもない女であるらしいことが仄めかされて、唐突に終わります。 これはあくまで女糸井美幸をめぐる物語であり、糸井美幸の物語ではありません。 岐阜県の田舎町を舞台に、狭い町ならではの、濃密で因習的な人間関係を背景に、貧しい境遇から抜け出すべく、女の色香を武器に奮闘する様が、あるいは友人の口から、あるいはパトロンの代議士の事務所に勤める秘書の口から、また、サラりーマンから、零細企業の社長から、語られます。 最初は適当に連作を連ねているのかと思わせておいて、じつは緻密な計算のもとに紡ぎだされた物語だと判明するという仕掛け。 文章はあまり品がありませんが、テンポが良くて読みやすい。 この作者の作品を読むのは初めてですが、他のものも読んでみたくなりました。噂の女 (新潮文庫)奥田 英朗新潮社にほんブログ村 本・書籍 ブログランキングへ
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涙な添へそ

7月の初日は朝から雨。 梅雨であればやむを得ません。 雨が降ると、それだけで気分が沈むのを、どうすることもできません。 むかし思ふ 草の庵の 夜の雨に 涙な添へそ 山ほととぎす   藤原俊成 「新古今和歌集」に所収の和歌です。 草庵で昔を偲ぶ雨の夜、悲しい声で涙を誘ってくれるな、ホトトギスよ、といったほどの意味かと思います。  独り寂しい草の庵で雨音を聞きながら昔を思い出すというのは、寂しい状況のはずですが、私はこの歌に、どこかメランコリックな快感を覚えます。 憂愁というもの、辛いようでいて、それがメランコリーにとどまっている限り、なぜか心地よいものです。 寂しい歌や悲恋の物語などが好まれるのも、メランコリーの快感を覚えるからではないかと推測します。 こんな日は私も暗い快感に沈むとしますか。
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新月

新月の夜は月が見えません。 しかし、太陽に隠れているだけで、確かにそこに在るのです。 それをもって、近頃では新月の願い事、というのが流行っているそうですね。 昨夜、貫井徳郎の長編、「新月譚」を読み終わりました。 ミステリー作家が描く、20年以上に及ぶ道ならぬ恋を描いた物語。 殺人事件は起きません。 女流作家、咲良玲花は、49歳で突如、筆を折ります。 人気絶頂の最中、なぜか? 中学生の頃から彼女の作品を愛読していた若手編集者が、誰にも明かされなかった彼女の創作の秘密と半生を聞かされます。 彼女の長い独白が、この小説の大半を占めます。 ブサイクで暗かった事務員が、小さな会社の社長と付き合うことにより、明るくなり、社長の気持ちを繋ぎ止めるために整形を繰り返し、この世の物とは思えない整った顔の美人に変身します。 さらには、才能があり、上昇志向の女性が好みだと聞いて、彼女は一生懸命小説執筆に励み、ついにはベストセラー作家となるのです。 社長が別の女と結婚しても、日陰の存在のまま、不倫関係を続けます。 しかし、社長が49歳のとき、42歳の妻が懐妊した頃から、何かが狂い始めます。 創作の動機が社長を...
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「ミノタウロス」あるいは単純な力

昨日、佐藤亜紀の「ミノタウロス」という小説を読み終わりました。 ロシア革命期の混乱を背景に、ウクライナ地方で殺人や盗みなど、悪の限りを尽くす少年と二人の仲間の物語です。 ミノタウロスとはギリシア神話に登場する、頭が牛、体が人間の怪物ですが、これは残虐と暴力の象徴と捉えるべきで、作品にそういう化け物が登場するわけではありません。 ミノタウロスの絵画です。 主人公はウクライナ地方の田舎地主の次男坊として生まれ、何不自由なく育ちます。 ドイツ語やフランス語も学び、お坊ちゃんらしく、どこかシニカルではありますが、特別乱暴な少年ではありません。 しかし、父親が亡くなり、続いて兄も自殺するにおよび、父親代わりとなった男を殺害し、無頼の旅に出ます。 時あたかもロシア革命の真っただ中。 私はロシア革命というのは、基本的に赤軍と白軍が真っ当に戦ったのだと思っていましたが、この小説に描かれているのは、赤白どちらに属していようと、おのれの利益のためには簡単に寝返る兵士、下手をすると正規軍以上の兵器を持ったヤクザ、ごろつき、一匹狼などが暗躍する混沌とした世界。 簡単に人を殺し、女を犯し、食糧や武器弾薬を強奪す...
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ちょっと今から仕事やめてくる

昨夜、「ちょっと今から仕事やめてくる」という小説を読みました。 軽い読み物といった趣で、すらすら読めました。 電撃小説大賞メディアワークス文庫賞というのを受賞したそうです。 印刷会社に勤め、営業に精を出す新入社員の苦しみを描いた作品で、なんとなく、身につまされました。 働く意味を考えつつも日々の激務に追われ、駅のホームから転落しそうになった主人公を助けたヤマモト。 ヤマモトは主人公の小学生時代の同級生を名乗りますが、主人公にはヤマモトの記憶がありません。 しかしヤマモトと酒を飲んだり休日を一緒に過ごしたりするうち、少しづつ元気を取りもどしていきます。 ミステリアスながら底抜けに明るいヤマモト。 それでも日々の激務や、営業同士の足の引っ張り合い、上司からのきつい叱責にしだいにおいこまれていきます。 サラリーマンならだれもが一度は通るしんどい道。 涙なしには読めません。 月曜日の朝は、死にたくなる。 火曜日の朝は、何も考えたくない。 水曜日の朝は、一番しんどい。 木曜日の朝は、少し楽になる。 金曜日の朝は、少し嬉しい。 土曜日の朝は、一番幸せ。 日曜日の朝は、少し幸せ。でも、明日を思うと一...
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美と恐怖

美と恐怖が分かちがたく結びついていることは、美の本質を探ってみれば、自明の理であろうと思います。 だからこそ、恐怖映画とか怪奇映画は、ロマンチックで美しいものとされてきました。 近年にいたり、即物的とも言うべき、血がドバドバ出たり、むやみに残虐シーンが多いホラー映画が生まれてから、美と恐怖の間に乖離がうまれたように誤解されるようになったように思います。 私はそうは思いません。 下品なホラー映画には、恐怖を感じません。 しかし上質なホラー映画は、恐怖とともに、うっとりするような映像美を描き出します。 つまり下品なホラー映画は美しも無ければ怖くも無いので、美と恐怖の融合など望むべくもないということです。 「シャイニング」しかり。シャイニング 特別版 コンチネンタル・バージョン ジャック・ニコルソン,シェリー・デュバル,ダニー・ロイドワーナー・ホーム・ビデオ 「リング」しかり。リング 鈴木光司,高橋洋角川映画 「箪笥」しかり。箪笥 イム・スジョン,ムン・グニョン,ヨム・ジョンア,キム・ガプスアミューズソフトエンタテインメント 「ノスフェラトゥ」しかり。ノスフェラトゥ クラウス・キンスキー,イ...
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永遠

今日は梅雨寒。 最高気温は20度程度と、ずいぶん涼しく感じられます。 考えてみると、梅雨を詠んだ俳句というのは、あまり思いつきません。 俳句というと自然美に人情などをからめて詠む短い定型詩という印象が強いのではないでしょうか。 しかしあえて、この中途半端な梅雨の時季に、哲学的とも言うべき、永遠を感じさせる句を鑑賞してみたいと思います。 生きかはり 死にかはりして 打つ田かな 村上鬼城村上鬼城の世界松本 旭角川書店 この句は極めて分かりやすいながら、どこか不気味な感じが漂って、この俳人の持ち味がよく出ていると思います。 生きかはり死にかはりという句に、人間の営みの、命のサイクルとでも言うべき永遠性が感じられます。 じつにスケールの大きな句で、俳句というもののイメージをぶち壊すような破壊力を感じます。 百年後の 見知らぬ男 わが田打つ 齊藤美規白壽―齊藤美規句集 (今日の俳句叢書)斉藤美規角川書店 この句も、100年後という遠い未来に思いを馳せて、SF的な趣を醸し出しています。 100年後、私の職場が存続しているのかどうかさえ分かりませんが、まだ存在していたら、相も変わらずつまらぬ事務仕事...
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謎解き+心理描写

午前中は散髪に行ってさっぱりし、午後は読書などして過ごしました。 読んだのは「後悔と真実の色」という思わせぶりなタイトルのミステリーです。 都内で、若い女を狙った連続殺人事件が発生。 人差し指が切り取られ、持ち去られるという猟奇的な特徴を持っています。 犯人に迫るのが警視庁捜査一課の切れ者刑事です。 この小説がユニークなのは、犯人捜査の途中で切れ者刑事が不祥事を起こし、退職させられてしまうこと。 切れ者刑事は妻から逃げるように家出し、ホームレスにまで落ち込んでしまいます。 指蒐集家を自称する犯人や多くの刑事の心理描写が巧みに描かれます。 謎解きと心理的葛藤を両方追って、まずまず成功しています。 特に切れ者刑事が退職に追い込まれた終盤以降、物語は加速していき、息をもつかせぬ迫力です。 文庫本で650ページを超す大作ながら、一気に読ませる力技は見事です。 警視庁と所轄署の暗闘、また、捜査一課とそれ以外の部署との対立が描かれ、これが実際に近いとすると、組織の不備なのではないかと思わせるほどです。 まぁ、私の職場でもセクショナリズムに凝り固まったような愚かな人がいるくらいですから、立場の違いに...
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遍在

世に不思議の事象あまたありと雖も、我が身に降りかかることありとは思はざりき。 我、宵、寝ころびて書読みつつうたた寝すれば、我が身を薄き膜覆いたり。 はて、なんぞと思ゆれども、膜の中、涼しく快きゆえ、我、そを楽しみたり。 うつらうつらせしうちに、目覚めれば、膜厚くなりて、もはや防弾ガラスの如くなり。 我、そを驚かず。 むしろ望むところと、喜ばざる能はず。 陶然としてガラスの膜眺むれば、膜、僅かに振動起こしたり。 されど我が寝ころびおる畳、微動だにせず。 我、ただ酔いたる心地して、成り行きを楽しみたり。 膜の動きいよいよ激しく、つひには浮かばむとす。 我、そを見ても、動じることなし。 すべては予め定められしことと思ゆ。 ついに膜、勢い増して跳ね上がり、天井を突き破る。 天空目指し一直線に飛ぶ。 気づけば眼下に列島の形をなしたる光を見ゆ。 光、点在し、光多きは都会なりしと悟る。 我、天高く浮遊する化け物となりしか、はたまた天上界に至りて天使に化けたるか。 膜、堅固にして我を守ること万全たり。 しばし浮遊せし後、膜、再び振動す。 さらなる高みに向かひ、上昇すること宇宙ロケットの如し。 我、初め...
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夜想

昨夜、夜更かしして読みかけの小説を読み終わりました。 久しぶりに、物語の世界にどっぷり浸かれたひと時を持てたことは、私の喜びとするところです。 小説は貫井徳郎の「夜想」。 この作家、私とほぼ同世代で、魂の暗闘をミステリーに仮託して描く骨太な作風の人です。 ミステリーとしての読みやすさや面白さにこだわるのを止めて、自身の内奥から湧き出でる言葉を紡げば、大変な作家になると思うのですが。 交通事故で妻と幼い娘を喪った30代前半の主人公。 仕事は手につかず、ミスばかりしています。 ある時、喫茶店でアルバイトをしている女子大生と出会い、運命が変わっていきます。 女子大生は、物に触れることでその持ち主の過去や精神状態が分かってしまうという特殊能力の持ち主だったのです。 主人公が落とした定期入れを女子大生が拾い、主人公の深い心の闇を覗いて涙をこぼしたことから、二人の関係は始まります。 主人公は心から自分の悲しみを理解できる人を見つけた喜びで、夜の闇を彷徨っているような状態から抜け出せたと感じ、女子大生を崇拝し、彼女を中心に、悩み相談のような、占いのような会を立ち上げます。 やがてその会は雑誌に取り上...
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殺戮にいたる病

掃除や洗濯、買出しなどの家事に精を出した他は、読書をして過ごしました。 「殺戮にいたる病」という小説を詠みました。殺戮にいたる病 (講談社文庫)我孫子 武丸講談社 ネクロフィリア(死体愛)の性倒錯者の連続殺人鬼を描いた作品です。 主人公は、夜の町で美しい女性をナンパしては殺害し、死体を犯すわけですが、彼はただ一度しかできないその性交を、真実の愛と感じています。 犯行を犯してしばらくは、その思い出にひたって至高の時を過ごしますが、一ヶ月もすると記憶は薄れ、あれは真実の愛などではなかったと感じ、新たな愛を求めて彷徨うのです。 しかしこの小説の優れた点は、人物や時制を混乱させ、読者にトリックを仕掛け、ラストの数行に到って完全に読者を呆然とさせるほどの、騙りを成功させているところです。 ネタバレになってしまうので詳述はしませんが、叙述トリックと呼ばれる手法を見事に駆使しており、騙される快感に引きずり込まれることになります。 やや大仰で思わせぶりなところは鼻につきますが、それも叙述トリックの一貫と思えば、目をつぶっても良いでしょう。 なかなか楽しい読書体験でした。にほんブログ村 本・書籍 ブログ...
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