文学

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夜想曲集

昨夜はカズオ・イシグロの短編集「夜想曲集」を読みました。 この作者の短編集は初めて読みました。 というか、私の知るかぎり、短編集はこれ1冊だけだと思います。夜想曲集 (ハヤカワepi文庫)カズオ・イシグロ早川書房 いずれも音楽家が主人公になっています。 酒場で演奏する売れないバンドからかつてスターであった老歌手まで、さまざまです。 この短編集の刮目すべき点は、ユーモアが前面に出されているところです。 しかしそのユーモアは、人生というものへの辛辣さが隠されていて、そこが深い味わいものになっています。 エンターテイメントのようでいて、文学になっている、素敵な短編集でした。
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消滅世界

昨日は村田沙耶香という作家の小説を読みました。 「消滅世界」です。消滅世界 (河出文庫)村田沙耶香河出書房新社 人類の生殖は人工授精で行うことが当然になり、性行為は不潔とされ、忌み嫌われるようになった世界。 さらに進んで、実験都市というのを作り、楽園(エデン)システムという気色の悪い方法で人間社会を変革させようと試みます。 すなわち、男は人口子宮というものを取りつけ、男でも女でも出産を可能にし、生まれた子供は父母ではなくエデンシステムが育てる。 子供は社会全体の物として、男も女も老いも若きも成人は全ての子供のおかあさんとなり、家族という概念は消滅してしまう。 一種のSFであり、ジェンダー・レス社会を描いた作品と言えます。 非常に興味深い内容で、感銘を受けました。 もう10年も前になるでしょうかか、この人の芥川賞受賞作「コンビニ人間」を読みましたが、あんまり面白くないという印象を受けました。コンビニ人間 (文春文庫)村田 沙耶香文藝春秋 それが「消滅世界」を突然読んでみる気になったのは、本屋で偶然手にとり、面白そうだと思ったからです。 思い返してみれば、コンビニでの仕事に耽溺する中性的と...
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遠い山なみの光

今日は昨日とは打って変わって静かに過ごしています。 まずは朝一番で散髪。 夕方16時30分から精神科へ行く予定。 その間にカズオ・イシグロの処女長編「遠い山なみの光」を一気に読みました。遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫 イ 1-2)カズオ イシグロ早川書房 舞台は終戦後間もない長崎。 そこで若い妊婦と彼女を囲む人々との日常が淡々と綴られます。 その中に異色の人物が登場します。 米国人の愛人から一緒に米国に行こうと誘われ、それに夢を抱きながら、いつまでも渡米がかなわない女です。 主人公はそれを愚かな考えだとしています。 しかし、その主人公自身が、その経緯は語られませんが、家族を捨てて英国人の夫と子供を抱えて英国に移住しています。 主人公と他の登場人物たちとの間で交わされる会話が印象的です。 そこはかとなく漂う時代の変化に伴う諦念だったり哀愁みたいなものが物語に深みを与えています。 カズオ・イシグロは長崎で生まれ、5歳の時に親の仕事の関係で英国に移り住みます。 そのまま英国で過ごし、英国籍を取得。 日本語はほとんど出来ず、英語で小説を書き始めます。 その作品群は英文学として高く評価され...
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湖の女たち

昨夜は吉田修一の「湖の女たち」という小説を読みました。 吉田修一といえば、芥川賞受賞作「パーク・ライフ」が非常に印象に残っていますが、なぜかその後この作者の小説を読むことはありませんでした。パーク・ライフ (文春文庫)吉田 修一文藝春秋 この小説、文庫本で400頁足らずですが、とにかく登場人物が多い。 あまりにも多いので、相関図のような物を作ってしまいました。 そうでないと混乱するからです。 この小説では湖と言えば琵琶湖と戦前の満州国に作られた人造湖、平房湖を指しています。 琵琶湖のほとりに建つ老人ホームでの事件とも事故ともつかない老人の死から物語は始まります。 真相を追う刑事と施設で働く介護師との異常な性的関係、平房湖で起きた少年と少女の死、それらが複雑に絡み合って、ついには老人の死は731部隊の蛮行にまで繋がっていることが示唆されます。 しかし、全ては示唆であって、真実とも虚構とも語られません。 複雑な物語で、しかも読後感は最悪。 嫌な気分にさせらてしまい、しかも逆説的ですが、それが心地よいあたり、いわゆるイヤミスに近いのかもしれません。湖の女たち(新潮文庫)吉田修一新潮社
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あなたのため

今日は小説を読みました。 「毒母ですが、なにか」です。毒母ですが、なにか(新潮文庫)山口恵以子新潮社 女子高生が毒母になり、娘を思い通りに育て上げようとする長い物語が紡がれます。 毒母が70を超えて要介護3になっても、娘は子供の頃の記憶から逃れることが出来ず、絶縁状態を続けます。 娘は幸せな結婚をし、毒母から逃れるわけですが、自らは妊娠しても堕胎し、母になることを拒絶します。 自分が実母のような母親になって子供を支配しようとするのではないかと心配だからです。 文章は少々雑ですが、内容の面白さから、一気に読みました。 母と娘というのは難しいようです。 実は同居人も、実母との関係性に苦しんだ一人です。 言葉の暴力をシャワーのように浴びせ続け、わずか10歳にして自殺未遂を起こします。 しかしそれは実母の怒りを倍加させるだけでした。 その後も同居人の存在そのもを否定するかのごとき発言を繰り返します。 それは社会人になっても続きます。 社会人になったのだからとっとと家を出れば良いのにと思いますが、毒親は結婚以外で家を出ることを許しません。 私と一緒になることで堂々と家を出ることが出来たわけです。...
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ある男

昨日は同居人が休日出勤であったため、一人の土曜日となりました。 世間の中年男は奥さんがたまに留守をすると、一人を満喫できるので喜ぶと聞いたことがあります。 私はそんなことはありません。 深く同居人に依存していますので、もし同居人に先立たれでもしたら、孤独に耐えられないのではないかと考えただけで怖ろしくなります。 で、気晴らしに小説を読みました。 平野啓一郎の「ある男」です。 映画化もされているようです。ある男 (文春文庫)ある男 (文春文庫 )ノーブランド品ある男 通常版DVD平野啓一郎松竹 林業に携わる夫が事故死して、残された妻子は嘆き悲しみます。 しかし、奇妙なことが起こります。 ほとんど絶縁状態だった夫の実兄が焼香にくるのですが、遺影を見て、これは弟ではないと断言します。 では、夫は何者だったのか、知り合いの弁護士が探偵ごっこを始めます。 そして明かされていく真実。 それはとても怖ろしいものでした。 ネタバレになるのでこれ以上は紹介しませんが、純文学作品でありながら、謎解きの要素を含んだスリリングな物語に仕上がっています。 同居人のいない土曜日を慰めてくれた秀作だと思います。
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マチネの終わりに

平野啓一郎の「マチネの終わりに」を読了しました。 知りませんでしたが、映画化もされているようです。 恋愛小説というくくりになるのでしょうが、それだけではありません。 天才クラシックギター奏者である蒔野とジャーナリストの洋子の関係性を軸に物語は構築されています。 そこには天才音楽家であるための恍惚と苦悩が語られ、ジャーナリスト故の世界の出来事に対する一種の憤りみたいなものが色濃く描かれます。 恋愛小説と言っても、若い人のそれではなく、38歳の男と40歳の女、中年同士の恋愛です。 ただし、二人とも独身なので不倫というわけではありません。 もっとも、洋子はアメリカ人の男と婚約していますが。 二人はたった3回会っただけで、互いに激しく魅かれあいます。 しかし、蒔野を慕うマネージャーの女の偶然が招いた策略により、二人はボタンの掛け違いから、相手から疎まれるようになったと感じ、4度目の逢瀬はおあずけとなります。 その間、二人はそれぞれに恋をして別の相手と結婚し、子供をもうけます。 そのままなら、昔の恋の思い出として終わったのでしょうが、マネージャーの女は罪の意識に耐えられず、夫にも洋子にも何年も前...
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鏡の中は日曜日

先般読んで非常な感銘を受けた「ハサミ男」の作者、殊能将之の本格ミステリ「鏡の中は日曜日」を読みました。鏡の中は日曜日 (講談社文庫)殊能将之講談社 これを読んで、私は懐かしい気分になりました。 小学校高学年の頃、学校の図書室にあったシャーロック・ホームズシリーズや、エラリー・クイーン、アガサ・クリスティのミステリを熱心に読んでいたからです。 その後私は本格ミステリに興味を失い、読むことがなくなりました。 「ハサミ男」はどちらかというとホラー・サスペンスの趣があり、興味深く読んだので、同じ作者の小説を読んだわけです。ハサミ男 (講談社文庫)殊能将之講談社ハサミ男 豊川悦司/麻生久美子東宝 フランスの詩や本邦の短歌、考古学に知識が豊富なことがよく分かる、教養のある作家です。 それだけに文章にも品があってしかも読みやすい。 夢中で読んで、文庫本560ページの長編を一気に読んでしまいました。 しかし、私はやはり本格ミステリに興味を失っているようです。 要するに、面白いだけなのです。 明日には内容をわすれてしまいそうです。
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本心

かねて読み進めていた平野啓一郎の「本心」を昨夜読了しました。 平野啓一郎と言えば、大学在学中に「日蝕」でデビューし、同作で当時史上最年少で芥川賞を受賞しました。日蝕・一月物語(新潮文庫)平野 啓一郎新潮社 その流麗でやや難解な文章から三島由紀夫の再来とまで言われました。 私もその作品を読んで、とんでもないやつが出てきたと思った記憶があります。 しばらく平野作品を読まないでいたのですが、数年前「ドーン」という作品を読んで、違和感を覚えました。 擬古典的で美的な作品が、近未来SFみたいになっていたからです。 作家の興味関心は大きく変わり、人類はどこへ行くのか、ということをテーマにしているように思いました。ドーン (講談社文庫)平野 啓一郎講談社 で、今回読んだ「本心」。 これも近未来を描いた作品です。 最愛の母を事故で喪った29歳の青年。 深い喪失感から、VF(ヴァーチャル・フィギア)を作成する会社に頼んでVFの母親を作り、毎日ゴーグルを付けて母と会話します。 VFの母親は会話を通して学習し、本物の母親に近づいていきます。 母親は事故で亡くなっていますが、自由死という制度を使った自殺を考え...
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消えない月

昨日、人事異動の内示がありました。 私は動きませんでしたが、私が信頼する部下が異動することになり、ショックを受けています。 東大卒で記憶力が良く、気が利く人でした。 そろそろ30歳になろうかという女性です。 後任はなんと54歳で、職場でも有名なヒステリックなおばさんです。 ヒステリックなだけではなく、仕事が杜撰でミスが多い人です。 私と同期で、大ベテランですが、就職したばかりの頃とあまり変わっていません。 年度末はただでさえ憂鬱なのに、優秀な部下が去り、ミスだらけのおばさんが来ると言うことで、立ち直れません。 午前中は憂鬱を吹き飛ばそうと近所をひたすら歩き回りました。 少しは気が晴れたかというとそうでもなくて、来年度一緒に働いてみなければ何とも言えません。 午後は気楽に読めるミステリを読みました。 「消えない月」という本を読みました。 ストーカーを扱った小説で、ストーリーはそこそこ面白いのですが、文章が稚拙です。 ラノベみたいな感じです。消えない月 (角川文庫)畑野 智美KADOKAWA 世の中にはおよそ面白くない内容なのに、うっとりして生理的快感を覚えるほどの名文を書く人がいます。 ...
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荻窪メリーゴーランド

昨夜は歌集「荻窪メリーゴーランド」を読みました。荻窪メリーゴーランド木下 龍也太田出版 35年くらい前になるでしょうか、俵万智が「サラダ記念日」という口語の歌集を出して論争が巻き起こりました。 新しい短歌だ、とか、なぜ自由詩で書かず、三十一文字に載せるのか、だとか。 当時大学生で国文学を学んでいたのですが、高名な歌人でもある岡野弘彦先生という方から源氏物語を勉強していました。 岡野先生、古い歌人の代表として俵万智と比較されて激怒していました。サラダ記念日 (河出文庫 227A BUNGEI Collection)俵 万智河出書房新社 懐かしい思い出です。 そんな論争が嘘のように、今では口語短歌なんて当たり前の物になっているようです。 「荻窪メリーゴーランド」は男女の歌人が歌を詠みあう相聞歌のような体裁を取っています。 男の歌人が木下龍也という人で女は鈴木春香という人。 初めて目にする名前です。 相聞歌によって、一組の男女の恋の始まりから悲劇的な終わりまでを描いて、まるで短編小説のような趣を醸し出しています。 もちろん短歌ですから、細部は分かりませんが。 財布を無くした女が交番を訪れたの...
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死の時間

昨夜は江藤淳による愛妻を看取った手記「妻と私」と自分史的な「幼年時代」それに福田和也、吉本隆明、石原慎太郎、3氏による江藤淳への追悼文が所収された文庫本を読みました。 200ページ足らずということですぐに読み終わりました。妻と私・幼年時代 (文春学藝ライブラリー)江藤 淳文藝春秋 江藤淳という高名な文芸評論家の名前くらいは知っていましたが、敬して遠ざけ、ついぞ読んだことがありませんでした。 文芸評論を読むくらいなら、文芸作品を読んだほうが良いと思っていたからです。 このたびその著作を読むことになったのは、書店で見つけてなんとなく、というのが実態です。 「妻と私」は末期がんに侵された妻を看病し、看取り、さらには妻亡き後著者自らが大病して闘病する様子を描いたものです。 その筆には鬼が宿ったがごとき迫力があって、読む者を圧倒します。 江藤夫妻には子供がおらず、二人だけで、夫婦と言うより同志愛のようなもので結ばれて生きてきたような印象を受けます。 妻を看病しながら、時間は日常的な時間と生死の時間という分類ができ、しかも生死の時間は死の時間にならざるを得ないと言うことに気付いたことが語られます。...
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ハサミ男

三日ほどかけて、ミステリの傑作と呼ばれる「ハサミ男」を昨夜読み終わりました。 以前、もう15年ほど前に映画版を観たことがあるのですが、その時の印象はまぁまぁ面白かったかな、という程度のものでした。 改めて原作を読んでみて、物語の重層性やミステリでありながら高い文学性を持った文章に深い感銘を受けました。 タイトルは陳腐と言ってもよいくらいですが、中身はまったく違います。 先日本屋を訪れた際、帯に、「古典にして大傑作! えっまだ読んだことが無い!?」という煽情的な言葉が並び、つい、買ってしまいました。 結果、大当たりだったというわけです。ハサミ男 (講談社文庫)殊能将之講談社ハサミ男 豊川悦司/麻生久美子東宝 女子高生を絞殺し、その後喉にハサミを突き立てる、という殺人が2件発生。 警察の捜査も虚しく3人目の犠牲者が出てしまいます。 警察は当然同一犯の犯行と見て捜査を始めますが、どこか奇妙です。 3人目の殺害現場には喉に突き立てたハサミと同じ物がもう一つ落ちていたり、ハサミの先を鋭角に研磨していたのが、荒かったり。 そして3人に共通しているのが、全く性的暴行の跡が見られないことです。 この物...
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予言の島

昨夜はホラー・サスペンスを読みました。 「予言の島」です。予言の島 (角川ホラー文庫)澤村伊智KADOKAWA 1970年代にオカルト・ブームというのがありました。 小学生だった私はモロにその影響を受けています 「オーメン」シリーズや「エクソシスト」等のホラー映画、ノストラダムスの大予言、それに横溝映画シリーズの大ヒット等がその一端です。 昨夜読んだ「予言の島」、横溝作品とよく似ています。 作者は横溝ファンを公言しているらしいですから、当然かもしれません。 思わせぶりでやや冗漫な前半。 謎が深まり、引き寄せられてく後半。 そして畳みかけるようなスピード感でグイグイ読ませるラスト。 まるで教科書のようなホラー・サスペンスです。 堪能しましたが、今後この作者の作品は名画「来る」の原作、「ぼぎわんが、来る」だけ読めばいいかなと思います。 何と言うか、教科書的なだけに、面白くはあっても雰囲気が無いのです。来る岡田准一ぼぎわんが、来る 比嘉姉妹シリーズ (角川ホラー文庫)澤村伊智KADOKAWA 昨日買った3冊に加えて以前購入してまだ読んでいない本があります。 それらを読むのが楽しみです。
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化物園

昨夜は恒川光太郎の連作短編集「化物園」を読みました。 7つの短編が収められています。 一つ一つの作品は独立した物語ですが、同じ化物が登場することによって、連作と見做すことができます。 同じ化物とは言っても、猫だったり蛇だったり、果ては顔が無く、数センチ浮いているものだったり、見た目は様々ですが、それらは同じ物です。 この短編集の圧巻は、最後に掲載されている「音楽の子供たち」の迫力でしょうね。化物園恒川光太郎中央公論新社 「音楽の子供たち」によって、それまでは明かされなかった化物に関することが分かります。 化物は人間が誕生するはるか以前から存在する物であって、その姿は変幻自在であり、かつては人間を喰らうこともあったことが示唆されます。 その後異形の化物は人間世界の片隅で息をひそめ、長く、人間との関係を保ってきました。 人間によって化物はどう変わるのか、また、化物によって人間はどのような影響を受けるのか、それらがぼんやりと描かれます。 人間と化物との距離感が良い感じです。 この作者ならではの、どこか寂しさを感じさせる、メランコリーとでも言うべき雰囲気が漂っていて、良い連作短編集であったと思...
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